もう少しさかのぼって、高校3年の秋



「おい、こっち!」
そう言えば相手はこちらを向き、眉間にしわを寄せてこちらへ向かってきた。
仏頂面の格好は今の風には少し寒く、上着を貸してやろうと思ったけれどないので腕を少しさすってやった。
「迷った」
「わかってるよバーカ」
やっぱり家まで迎えに行けばよかった、そう思った。
ゾロが家に遊びに来るのは初めてではないけれど、過去数回の彼の行動からして覚える気配がしなかったのでまぁ予想はしていた。
だから30分も自分の家の前で。
馬鹿みたいに。
ここが少しおかしいのか、と自分に問いかけてみた。
新しいメニューの試食をしてくれないか、と電話をした時に言われた言葉がなんで俺?だった。
感想なんて碌に言えねぇし、そう言われればそうだ。
だが、食べてもらうといえばゾロしか出てこなかったのだ。
彼女は?と言われてああそうか彼女が居たかと思った。
承諾はしてくれたものの、その後サンジには少し嫌な塊が残った。

「早く開けろ」
まだふてくされた顔はドアの前で体をぶらぶらさせている。
その姿に笑いながら、のぼり終えていない階段から鍵を投げた。
よく分からない事は忘れてしまおう、今日は休日だ。

何も言わずに食べ終える姿を見てゾロでよかったと無意識に思うのはこれから2時間後のことである。





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