悲しきは・・・



「ゾロ」

そう呼ばれたときの自分の心の内が読まれていなければ良いと思った。
心臓がひどく飛び上がってしまってなんとも情けない。
せめて振り返る時は平然で居ようと、それでもサンジの顔は見れずに、視線は彼の足元をさまよった。

「今日帰るのか」
「だったら何」
手を握りしめれば鼓動が聞こえる。
嗚呼嫌な汗が出る
「そうか…それじゃいいんだ」
「…明日」
「え」
「明日の午後だ。それがどうした」
金色の髪が下に垂れた気配がして、少し上を見た。
そうすれば2秒後には避けていたその目と合ってしまった。

「泊まりに来ないか。久しぶりだし」
「…え」

何も言わないでいると、サンジは慌ててやぶった小さなメモをゾロに渡した。
「おれの、番号」
もうずっと忘れられなかった番号。
「気が向けば、かけてこいよ」

返事は出来なかった、だけどゾロには断る理由がない。

サンジと別れた後、馬鹿にするなよと笑いながらメモを破った。
小さな紙切れは風に乗って青空を舞った。

しかし、いざとなると電話の前で3時間も固まってしまうのである。





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