[I don't want to say such a thing] ぶーん ぶーん ねえお母さん、あの鳥はなにをしているの? それはね、綺麗な草原を探しているのよ。 空の綺麗な、それは綺麗な青の下で。 その草原に行くと、鳥は綺麗な夢をみるの。 今日も晴天で、雲が形を見せた。 オレは夏の空が好きだ。こうやって雲は形を成すから、他の青いところが澄んだままになるんだ。 蒸し暑い感じも、外で鳴く虫も、熱くなってしまった自分の体も、空を見たら忘れた。 だから夏が好きだった。 それでも、元気に外で走りまわるようなことは、オレにはできないな、と心の中で思った。 ゾロは一度家に戻って、また外にでていった。 また彼女の尻を追ってどっかをおっつき回ってるんだろう。 オレは心の中で笑った。 そんな事思いながら、ふたつの皿を並べて、湯で立てを一個丸ごとをのっけた。 キャベツステーキ。 オレの特製ステーキ。 今日はゾロが庭からとってきた。 あいつは食料の事分かんないから、いつも彼女に頼んで選ばせてた。 彼女のキャベツ選びはすごかった。 ニオイも良いし、大きさも良いし、オレでも見つけられないようなモンをとってくる。 オレと彼女は良いパートナーだ。 ゾロは、育て方を分かってんのか分かってないのか、とにかくキャベツを一生懸命育てた。 その時は必ず彼女と一緒にやった。 彼女は嫌々どこかに行きたいわ、といつも首を振ってるけど、ゾロはそれを知らないみたいだった。 ゾロ、彼女とキャベツどっち選ぶ? って言ったら、多分キャベツの方が大切っていうのかな。 でもそのオカゲで、台所の窓から見えるキャベツは、綺麗に列になって、大きく、緑に育ってた。 綺麗だった。 空と同じくらいに、広がるその光景を見て、 「こんなかでお前が立ってても、お前の緑は一番輝いてるんだぜ?」 と昔、くどいてやるつもりで言ってやったが、ゾロは笑って彼女とどこかへ行ってしまった。 バカゾロ。もうステーキ作ってやんねぇよ。 テーブルに皿のっけて、さっき作った特製ドレッシングとマヨネーズを小さな皿にそれぞれ入れた。 そしたら、向こうの方から声がした。 「サンジ!!サンジ!!!」 ゾロだ。 向こうの方から、彼女と慌てて走ってきてる。 彼女の首についた大きな鐘が、ガランゴロンと大きな音をたててる。 ゾロ、慌てすぎだろ、彼女、かなり息切れしてるぜ? ガラッ 「サンジ!ちょぉ、聞けよ!」 「もうちょっと優しく扱ってやれよテメエ。」 「・・・ん?ドアそんなにキツく開けたか?」 こういう時、この顔で天然ボケは犯罪だろう、とか思ったり思わなかったり。 「ばっか。アイツだよアイツ。腹もそろそろでっかくなっきてて、しんどいんだからさ」 「あ?ああ、ミンキーのことか。まだ大丈夫だって。それに軽く運動させろってテメエ言ってたじゃん」 あのなぁ・・・加減ってもんがあるだろ。加減ってもんが。 そうツッコもうと思ったけど、これじゃ話がずれるから辞めた。 「ところでなんだよ?」 ああ、と思い出したような顔のゾロ。 思い出したと同時に、すごい笑顔をつくってきた。 ゾロの汗ばんだ手が持ってる紐は後ろに繋がってて、その先には彼女が繋がってた。 まだ息切れしてる。 「そのだな、ミンキーと散歩してたらさ、裏山にすっげぇ草原見つけたんだよ。知ってたか?」 その瞬間、何かを思い出したように、何か奥にしまいこんでたモノが引きずり出されたような感じになった。 しかも、視界は全てセピア色と化していた。 聴覚は衰え、ゾロの声がくぐもって聞こえる。 え?それって・・・・ 「お前が言ってたような綺麗な草原だったぜ。ミンキーが道覚えてるからさ、飯食った後に行かねぇか?」 もしかして。 オレはアホみたいな顔をゾロに向けながら、口を開けながら、うなずいた。 彼女の息は落ち着いたみたいだ。 大きなお腹は激しく上下には動かなくなった。 「なぁ、今日さぁ、いつもと味違うと思わねぇ?」 ゾロが、最初っから一口サイズにしたキャベツステーキを口に放り込んだ。 「ん?何が」 ゾロの一口サイズは大きいから、上手くしゃべれてなくて、オレにはハヒハヒとしか聞こえない。 「おまえ、気づけよ。お前好みの味のマヨネーズなのによ!」 「へ?これもお前特製?」 ごくり、とキャベツを飲んでそう言った。 味わいもしないで、ゴクリと。 「あのなぁ〜今日はいつものマヨネーズにワサビと醤油入れたんだよ。気づかなかった?」 「ん〜」 「オイ!!言っても分からないか!ちっくしょう。明日はマヨネーズは無しだ。ニンニク醤油で食べろ」 「っだぁ!!それだけはダメだ!」 そうだよな。オマエ、マヨネーズ大好きだもんな。 でも体に悪いんだぜ。あのキューPーマヨネーズ。市販のもんだろう? だからちょっとは違うもんつけてみなきゃな。 そう言ったら、ゾロは「こ、これ入ってるの、ワサビだろ?美味いなぁ」て慌てて言ってきた。 いやだからサッキ言ったろ、それは。 オレはアホ面のゾロを見て笑った。 彼女は外で蝶々と遊んでた。 ゾロはオレとの会話が済んだらいっつも彼女を見ようとするから、常に話を続けようとした。 でも今日の会話はそれで終わってしまって、ゾロは窓の外の彼女を見て笑ってた。 オレは気に食わなくて、まだ丸ごと残ってたキャベツを音を立てながら切って、黙って食った。 彼女が見える窓と反対向きの方向を見たら、そこにも窓があった。 空はまだ青かった。 食後に、ゾロはすぐに行こうと言ってきた。 だからって、こんなにすぐに外に飛び出すとは思わなかった。 食後の運動は、あんまし早いとダメなのに。 「おせーよテメェ!」 丘の上で叫んでるゾロが見える。 やっぱりその横には彼女がいる。 ゾロは平気な顔をして、また大きなお腹を上下させてる彼女をさすった。 ゾロの体力は牛以上かよ、と呆れるのはいつもの事だから言わないでおいて。 軽い気だるい返事を返して、今からこの先に見えるだろう景色を覚悟していた。 キャベツ畑のように広がる草原は見たことなかったから。 そして、その景色に色々な夢があったから。 月の見える場所でゾロとセックスした後に、なんだか変な気分になって、昔の話をした事があった。 然してその話はいつも饒舌なオレには似合わない短い話で、でも思い入れはあった。 ゾロはそれを察したのか、ずっと覚えててくれたんだ。 草原は、全てのものの墓場なんだ。 「サンジ、もっと太れよ。」 「・・・・なんで。」 「だからミンキーにもオレにも、競争したら勝てないんだ」 そういって、笑った。 彼女の腹をまださすってた。 ゾロまであと3メートル。 景色まであと3メートル。 その3メートルは長く感じた。 というより、スローモーションのように時が流れた。 オレがそうさせたのかもしれない。 景色まであと2メートル。 ゾロが地団駄を踏んでるのが見える。 分かったよ太るように心掛けるから。 せめてミンキーよりもオレと一緒に居る時間の方が長くなるようにしてやるよ。 景色まであと1メートル。 頭に浮かぶものなんて、もう青い鳥しかなかった。 ぶーん ぶーん ねえお母さん、あの鳥はなにをしているの? それはね、綺麗な草原を探しているのよ。 空の綺麗な、それは綺麗な青の下で。 その草原に行くと、鳥は綺麗な夢をみるの。 それでも良いな、と思った。 黄緑は嫌いだった。 だって、その色は、命を奪う色なんだぜ? 命を奪う色なんて、無ければいい。 だから母親に涙も見せた。 恐いってさ。 でも、それでも良いな、と今思った。 ここで命を奪われても、誰も恐がりはしない。 青い鳥だって、きっと涙なんて流したりしない。 「俺はここでなら死んでもいいよ」 ゾロが言った。 「俺はここでならいい。」 ビックリして、その黄緑から目が離せなかった筈なのに、思わずゾロの方を振り向いてしまった。 ゾロは向こうの向こうの、草原と空の境目をまっすぐ見つめてた。 その目が見てるものが、あまりに気になったのでオレもそっちを振り向いた。 「オレも、今そう思った。」 「オレも、ここなら恐くない。黄緑は恐くない。」 そう言ったら、ゾロがこっちを見て、「折角だから昼寝しようぜ」って言って笑った。 「多分死ぬほど気持ち良いんだ。」 そのとおりだった。 ゾロとオレは寝転がって、雲を眺めた。 気持ちが良くて、ここが天国なのがすぐに分かった。 でも、多分ここは、命を奪う場所じゃない。 それだけの場所じゃないんだ。 今までの恐さが無くなった瞬間、俺は泣いた。 それでも、心は嬉しかったから、ゾロはそれに気づいて放っておいてくれた。 それがまた嬉しくて、俺はゾロの手を握った。 「ミンキーの出産場所は、この草原だ。」 そう言ったら、ゾロは笑って「天国なのに?」と言った。 「天国だから良いんだよ。」 <END> 農園パラレル オフ本でも出しました |