[Voice gentle is for an angel] 砂浜が眼に飛び込んできたので、ルフィよりも先にゾロが「あっ」と声をだした。 何年か前に飛び出した島もこんなで、思わず期待をしてしまった。 そんな事はない、ここはグランドライン。 夢のような空の青、肌には少しキツい太陽、聞きなれた筈なのに珍しく思えるカモメの声、到着したここは夏島。 なんだか懐かしくて着く前からソワソワしていたが、流石にルフィには勝てなかった。 底の砂が見える、それでもまだ魚が泳いでいるその海の深さを恐れずにルフィは飛び降りて走った。 ロビンはナミを向き、ナミは横目でルフィを見、ため息をついた。 ゾロも、船が止まればすぐに降りよう、それから、と色々考えていた。 それでも、ナミに押されて何故か留守番になった。 何故か、サンジと。 「ゾロー、見ろよ。手で捕まえた」 ごちゃごちゃとうるさい声が下の方から聞こえて、ゾロは寝返りをうった。 「見ろって。ほーらーすげえって。・・・なんだよバカー降りて来いって」 嫌でも耳に入ってくる甘い声を、ひたすら無視をした。 しばらくもすれば・・・と思っていればやはりコツ、コツ、と音が近付いてきた。 足音すら、甘く聴こえる。 「なぁってば。」 二人きりなのに、とサンジは頭の上で愚痴った。 その声に少なからず反応してしまう。胃は少しだけ縮んだ気がした。 寝返りを打たなければ良かったと思う。眼をきつく閉じても光が差し込んでくる。 開けばその黄色、その青までもが入ってくるなどと思えば、今更なのにひどく後悔をしてしまう。 面倒臭い。苦しいのは誰だって嫌いだ。 「う、あ、あ、あ、ああっ」 突然上からの焦った声を聞いた。水滴が上から落ちて、ゾロの顔を満遍なく濡らした。 少し眉を寄せて、しかたなく開こうとした瞼の上にゴツンと何かが落ちた。 ゴツンというか、ヌルっとだ。 「うわっごめん!!」 其れが気持ち悪くて、起き上がって見れば小さな蒼い魚が床で勢い良く暴れていた。 きっと捕まえたと言った、魚だ。 サンジの手はビショビショで、袖までも少し濡れている。 それを、それを人の上で振った。 更に水だらけになる。 「何すんだよてめぇ!」 右手で顔を拭って怒鳴るゾロに、サンジは情けない顔をした。 「だって・・・」 情けない顔をした、が、それは一瞬で、すぐに口元は攣り上がり、笑った。 嫌な笑いだ。 「ゾロが」 そこで言葉は途切れた。 その瞬間、ゾロは抱きかかえられて、慌てて抵抗も出来ないまま船から投げられた。 下は、綺麗な青。 まっさかさまだった。 「ははっ上手上手」 そう聴こえたのは、ゾロがそのまま海に立った瞬間だった。 立てたとはいえ、下半身はずぶ濡れで、しかしこの暑さのせいで気持ち良く感じた。 「まるでネコみてぇだ」 笑い声の方を見るが、上手く見えなくて、でも少しだけ金色が見えた。 睨むつもりで作った眼が、眩しいゆえに役立った。 面倒くせぇ。 それだけゾロは思って、二人きりになってから初めての笑みを浮かべた。 夢の空の青、太陽よりも眩しいその黄色、懐かしい砂、色とりどりの、海。 見慣れたというよりも見飽きたに近い、この海なのに、その場に立ってゾロは気分が一転した。 成る程、サンジがいつもよりはしゃいでいて可愛く見えてしまったのもそのせいか、と思った。 しゃがんで手に含んだ水を、一気に発射してサンジの顔面に達した次の瞬間、サンジは海に飛び込み二人は水しぶきをあげて馬鹿みたいに暴れた。 その後、相手の胸に先に飛び込んだのは、何にも混ざらない、その鮮やかな緑だった。 <END> |