嵐を越えると言って。




靴を鳴らして向かってくるサンジが、こちらを向いて優しく微笑んだ。
ああ、また隙を見て、とゾロは思ったが、そのままサンジを向いて、一瞬合った目をすぐに逸らして海を見た。
波が荒い。
風がひどく吹き付けて、少し痛いくらいだ。
嵐が来るのだろうか。
「潮が体に付くぞバカ」
そう笑って、サンジは後ろに回って腰に手を回した。
ひどく優しく、それでも自分を惹くのは今はこの荒れた波なのだと心で理由をつけて、そのままサンジを振り向かなかった。
「こっち向けよ、なぁ」
バカと言われて振り向くわけねぇだろうと言ったら、「怒ったの?」と笑って、少しだけ手の力を入れた。
腰に回った骨ばった手を退かそうとする力がいまいち入らない。
少しだけ腹が痛むのは、ただ少しきつく腕が絡まっているだけだからだろうか。
ううう、と少し唸りたくなった。
いつも皆の前でしているような二人の会話だというのに、サンジは甘い空気を出すのがとても上手い。
流されかける。
だって、サンジが嫌いなわけでは

「わっっっ!!!!」
一瞬の出来事は、手すりに掴まった手と、腰に絡まった手をそのまま後ろに突き飛ばした。
床が大きく鳴く。 音は、雨に吸われてしまって響かない。 大きな風は、雨を一度に誘い、雷までも聞こえるようになった。
「いってぇ・・・」
サンジは、綺麗にゾロの下敷きになって、船の床を転がった。
それでも手は絡まったままだったのでゾロはその状況の中声を出して笑った。
「情けねぇ!!!!!」
「ばか!うっせぇ退け!!!!」
背中のサンジが騒ぐのを見て、サンジは背中を痛めただろうかと、ふと思った。
腰を押すサンジの腕に助けられて雨の中に堂々とゾロは立った。
海を見た。
ひどく荒れて、空と海の境はもう無くなってしまった。
「風が・・・・」
ひどい。
雨が横に打ちつけて、二人を闇に隠した。
「ゾロ、起こしてくれ!!!!」
後ろを見れば、情けないサンジがまだ床に転がっていた。
雨が痛そうで、髪から見えた目も瞑ってしまって、きっとゾロも見えていない状態なんだろう。
ゾロはまた少し笑って、手を伸ばした。

肩に掴まったサンジを放ったらかしにして、また暗雲を仰いだ。
やはり、嵐は嫌いだ。
こんな日には、皆で騒いで外を見ないで居たい。

その前に、シャワーを浴びたい。
この肩の情けないヤツと、一緒に。
嵐はそんなゾロに、サンジへの口実を簡単に与えてしまったのだ。

<END>






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