何も変わらない金曜日の午後

(高校生パラレル・サンジがバレー部でナミはそのマネージャーです)




ゾロを見つけたのは、ナミの方だっただろうか。
防具を付けた竹刀袋を肩に乗せて、フラフラと歩いていた。
午前中で練習が終わる剣道部員が午後3時の校庭を歩いているのは、彼が部室を自分の寝床だと思っているからで。
「可愛いわね相変わらず」
ギコギコと折りたたみイスを鳴らしながらナミは言った。
まだこちらに気付いていないゾロを見て、アハハと笑ったが、そんなナミを見てサンジは少し顔をしかめた。
ナミはサンジの顔を見るなり、あーと言ってから「男には分からないわよね」とまた笑った。
サンジは人差し指の爪を親指の爪で弾いた。
ここでナミが、なに?怒った?などと言えばきっと泣き出すだろうという位に情けない顔をした。

「ナミさんもう一杯くれる?」
サンジの差し出すプラスチックのコップは、まだ3分の1ほどスポーツウォーターが入っていて、ナミはサンジ君も可愛いわよと慰めるように言った。
少し愛想笑いをしてから、またゾロを見た。
別に訂正してナミがどうこう言うのが嫌なのでサンジは黙った。
なにせ、ナミの意見に同意しかけたのだから。
ゾロは、実際可愛かった。
可愛いなんて形容詞が似合うように作られた体でもなく、顔もかなり整った男の顔だというのに。
サンジは爪を弾いた。
体育館の時計は3時3分前を指していて、もうそろそろだと思いながらも、ゾロの後ろ姿を横目で見ていた。

「ゾロー!」
ナミが大きく手を振った。
ゾロはすぐに反応をしたが、どこからの声か特定できずに、重たい防具袋を振り回しながら校舎や空をぐるぐる見た。
「こっちよゾロ、バカー」
笑いながら言うナミにゾロが気づき、少し眩しそうにこちらに手を振った。校庭の半分くらい歩いていたのを、ゾロは少し引き返して体育館の下にやってきた。
「寝てたの?」
「ああ、また寝てた」
ナミはたいそう嬉しそうにゾロを見ていて、サンジは誰のおかげだとか情けない嫉妬などをぐるぐる体の中に潜めた。
サンジは、ゾロよりも眩しそうにゾロを見た。
「練習はまだかよ」
「うん、まだあと2時間あるわよ。あんたもやる?バレー。」
「やんねぇ。帰る」
すぐに返答したゾロにナミは「アハハ、ウソに決まってるじゃない」と、また笑いかけた。
「明日も午後?」
ゾロは防具を地面に下ろした。それにサンジは期待をした。1分1秒でも一緒に居たいと思う病気にかかったバカの心情だ。
「うん。これから暫く午後よ。何?遊んでくれるの?」
「ああー、また今度な。」
「あんた、そういう返事する時は絶対に約束果たしてくれないわよね。まぁいいわよ家に押しかけるから」
からかうナミを横目に、サンジはスポーツウォーターを飲み干した。
ゾロは防具を担ぎなおした。
時計はもう3時を指している。
こちらに少し手を振って、正確にはナミにだが、ゾロはそのまま校門へ向かおうとした。
ナミは笑いながらずっと手を振ったが、サンジはあまりいい顔をせずにコップを持って体育館に入ろうとした。

「あ、サンジー!」
帰ろうとしたゾロからの声で、予期せぬ出来事にサンジは一瞬心臓から氷の様に固まった。
コップを握り締めて、またゾロの見える場所まで戻って「なんだよ」と一言愛想の無い声で言った。
なにかしら固まる体を、サンジはどうしようか焦った。
「今日、練習終わってからお前ん家行っちゃ駄目か?無理だったら良いんだけど」
ゾロの台詞に驚いて、それからナミを少し目で見て、満足げに返事をした。
もちろん、サンジには断わる理由など無かった。
ゾロは少し照れた様に笑って少しサンジに手を振ってから帰った。
約束は5時半、迷うからという理由でゾロがもう一度学校に来て、クラブが終わったサンジと一緒に帰ると言った。
お前はお迎えに来た親父かよと思ったけど、ゾロの笑顔をもう少し見たくて何も言わなかった。
多分、この後の練習はいつになく好調なのだろう。
ナミは、いつの間にかサンジの手にあったコップを取って体育館に戻っていて、情けない男だ、少しだけ嬉しく思った。

空を見上げた。澄んだ3時の空は何もかもを吸い込んだ。

<END>






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