[Pass point] 付き合って1年が経つ。 告白はサンジから。 サンジは遠回しに、堀を固めていった。 内心を知られてか、石橋を叩いているのか。 その時はそんなことも考えず、ただ浮かれていた気がする。 思いを寄せる人に近づかれることほど、心を乱すものはない。 お互い手に入れたとおもって安堵したのも束の間、 少し経つと、不安定な要素が浮き彫りになっていった。 サンジは、少しの言葉に動揺し、落ち込む機会が増えていった。 どこに落ち込む要素があったのか、考えなくはない。 ただ、元より本当にサンジが嫌がることなどしていないつもりだし、 本人も話をしないから、変えることすらできない。 今日の休みも、ひとことも話さず、突如ベッドに組み敷かれた。 肩を力一杯押し付ける手は若干震えていて、その手を見ながら、 さっき入れてくれていたコーヒーを黙って取りにいったことや、 テレビを無意識につけていたことや、 そんななんでもないことに頭をめぐらせ、自分自身が混乱していくのを感じた。 「何が気に入らねえんだよ」 俯いた目が一瞬でこちらを向く。 その狂気じみた目を見てようやっと気付いた。 ああ、そうか。 お前の目には俺が写っているとおもっていた。 ずっと、そうおもっていた。もしかしたら、逃避したいがために思い込もうとしていたのかもしれない。 とんだ勘違いだった。 サンジの目に映るのは、俺ではない。サンジ自身だ。 気付いてしまった。 たとえば、 どうにか手にいれようとして頭がいっぱいになったぎこちない日々も、 日に日に増えていく二人の食事の時間も、 肌を重ねた日々も、 自己肯定感のないその言動思考すべての埋め合わせを俺自身に求め、負わせようとしていたがための時間だったと。 気付いてしまったのだ。 強引に唇が重なる。目を思い切りつぶった。 目を開いたときには、サンジはまた下を俯いていた。 「・・・きもちわりぃよ」 自分がどういう顔をしてその言葉を発したかなんて、考える暇もなかった。 ただ、目の前の瞳は大きく開かれ、今にも泣きそうなことには気付いた。 それから、目をそらしてしまったことも。 もうこの目を見ることはないのかもしれない。 そうおもったら、ああ、このきもちをなんと言えばいいのかなんて、考えてみたものの、 俺はそんな言葉を持ち合わせていない。 ただ、今はもう、これが自分にとってもサンジにとっても通過点なのだと、 知らしめられた。 本人は気付いていないだろう。俺を好きだと思っている。 言えばいいのかもしれない。手を差し伸べてもいいのかもしれない。 ただ、重ねた月日はあまりにもろく、自分自身からしても、これがただの恋愛だったことを思い知らされる。 彼の心のうちを支える力も、きっとまだ、持ち合わせていないのだ。 <END> |