アナログ
[While hearing Hello Goodbye]







何も変わらない。
何も変わらない。
そうだ、いつだって何も起こらずに、ずっとこうしてたい。

本当は、動きたくもない。


横にあるアナログのキカイは、真空管を使って今にはない声を伝えてくれる。
いつまで経っても色褪せないこの曲は、いつだってこの部屋に流れている。
変えない。そう、ここ半年ほどレコードを変えた覚えはない。
単純な言葉。
横文字の苦手なオレだって知っている英語。
変わらない日常。
幸せ。
彼らは果たしてこういう気持ちを抱いたのだろうか。
ヨーコだってこういう幸せを感じたかったのだろうか。
オレは・・・・
オレはというと。


「ご飯は?」
オレの胸にだらんと腕を乗っけた男はそう言った。
ここしばらく、この男の声をオレの耳元以外で聞いていない。
囁くと響いてくる、この感触。
ぞわっとする感触は、今になっても慣れなくて、男はこんなオレに「可愛いな」とだけ呟いて耳たぶに軽くキスをする。
そういえば、気が付けばいつだってベッドの上だ。
ずっと何もしないで、横の窓から入ってくる日差しを眩しそうに二人で見ている。
レコードはエンドレスでグルグル回る。
この前、サンジは「西に窓があって良かった」と言っていた。
オレにはどういう意味か訳が分からなかったが、大体サンジが気持ちよさそうにしているのは夕方の事だった。
夕方の、オレンジで赤い色が眩しくなった頃になると、オレの体を抱いていた腕を一層強くして耳元にキスをした。
後ろから抱きしめられるのは、オレも好きだ。

「こっち向いて」

そう言われると、今でもドキッとする。
振り向くと、きっと目の前で見つめられるに違いないから。
恥ずかしい?
幸せ?
そんなの知らない。
ただ、オレが振り向くと、サンジは本当に幸せそうな顔をして、アゴの方から持ち上げるようにしてキスをしてくれる。
頭の横が熱くなる。
レコードから聴こえるコーラスは、曲の終わりを告げる。
それから唇がオレから離れていく。
それはそれは、惜しむようにゆっくり。
ときどき、耐えられなくて唇が戻ってくる時がある。
もしくは、オレがもう一度とねだる場合がある。
その時はサービスでアゴを舐めてくれる。それが嬉しくて言ったりもする。

日は沈んでしまうのだろうか。
変わってしまう。
変わってしまう。
でも変わりたくない。
ずっとこうしていたい。

いつか変わってしまう事を知っていても、こうやってあがくんだ。


例えば、サンジがこの場所から居なくなると知っても、
最後までキスをねだってやる。
レコードは絶対に変えてやらない。
サンジと居た場所のもの全て変えない。
2つある事が無意味になったモノだって捨ててやらない。
だから、だからサンジ。




後ろからオレを抱きしめて、泣いていた事があった。
「いつまでもお前はオレの気持ちに・・・」と。
それを惨めに思ったこともあったが、オレだって相当惨めだった。
言えない気持ちと、行動で精一杯表す気持ちが、サンジに届かなくて。
これが良いのに。
ここが良いのに。
サンジは何をオレに求めるんだろう。
オレは、
後ろから抱きしめられる感触と
アゴを舐めてもらえる瞬間と
いつもキスをしてくれる前のあの響く声と
レコードから聴こえてくる、楽しげな寂しい声と

サンジの存在だけで
十分なのに。
それがオレの幸せなのに。
サンジは何を求めるんだろう。



「こっち向いて」
そう言われてまたぞくっとする。
幸せそうに笑って、キスをしてくれて、アゴを舐めてくれるんだろうか。
それから、まだねだると何をしてくれる?
それだけで幸せだ。
何も変わらなくていい。








<END>
このゾロ…キモ…!あぁあ消えてしまいたい!
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