自分でも悪かったと思う。 ただ、ああいう事はありえないと思って、つい焼いてしまった。 それが、後になって後悔させる形をとった。 やった所で状況が変わるわけでなく、全ては仕組まれたように事は進んでいく。 誰も悪くないのだから、それが当然の流れだと言われれば終わりなのだけど。 事は、オレの知らない場所で起こった。 女は話た事のない子で、今までに話していれば必ず口説き落としていたような、そんな女性だ。 長くのびる黒髪があまりにつややかで目で追ってしまうような。 聞けば、同じクラスだと言った。 そうだったのか、と曖昧な気持ちで答えた。 女はオレの知らない場所でコイツと会っている。 何度か喋っている所を見てしかも笑っていたりしていて、その度にイラついて、どうしようもない思いに舌打ちをした。 その黒髪がうっとおしく、羨ましく見えた。 この時点でその女はオレの好きではない部類になってしまった。 それを持って差し出した右手は手袋をしていて、あまりに持ちにくそうで今には少ない笑顔を浮かべて取ってやった。 「だからさ、」 親指で封筒をペコペコ鳴らしてしまう。 今更ピンクの封筒なんて、どれだけ純粋なのだ。 「付き合ってやれよ」 それを言うゾロの声があまりに冷たくて泣きそうになった。 何故二人でこんな雰囲気を作らなければならないんだろうと、少し苦笑いを見せた。 心はどちらの方が傷ついたろうと思う。 今、どちらの方が吐き気をもよおしているのかと思う。 きっとゾロだ。 「あいつ、いい奴だよ。ちゃんと自分の意見持ってるし」 この男は女の持ちかける相談に何も言わずに全て答えたのだろう。 女はその男の性格を知って更につけこんだのだろう。 馬鹿だ。 男も女も馬鹿だ。 気づけなかった俺はもっと馬鹿だ。 この場で焼いてしまおうか。 そして似合わない言葉で目の前の男を口説いてみせようか。 黒くて長い髪より、よほど触りたいのだと言ってしまおうか。 こんな惨めな事を思うのも、全てはこの目の前の手紙のせいだ。 惨めな三角関係を作ったのは、この目の前の手紙を書いたあの女のせいだ。 見れば、ゾロは無駄な笑顔を浮かべていた。 それを必死にやってはいるが、オレを一層悲しくさせるのが分かっているのだろうか。 「よかったじゃん。」 何が?そう言いたい口が、口篭もってしまう。 「・・・ああ。」 あまりにも痛い。 知っているのだから。この男は全てを知っているのだから。 きっとそうだ、何も口にはしないが気づいている。だから痛い。 自分に、この賭けに勝算が無いとは思えないのだから、なおさら痛い。 何も無いのは、言わなければならない事が無いからだ。 今で十分だ。 ・・・・でも。 「ゾロ」 下を向いてしまっていたゾロがこちらを見て、それから嫌な気持ちになった。 薄く笑って目を瞑るしか出来ない自分の顔が憎くもなる。 「あの、黒い髪の毛の女の子だろ?」 何を言われるかと思ったのか、一瞬戸惑って返事をした。ラブレターはどこまで嫌な気持ちにさせるんだろう。 「その子、明日呼んでくんない?返事するわ。」 「読まない気か?ちゃんと読んでやれよ!」 「読むよ。」 ああ、ため息がでる。 慌てる必要は無い。アンタは利用されたのに、人の事気にする事ないだろ? それから、オレの家で夕飯を食べる約束をしたかったのを忘れて家に帰った。 ゾロが買ってくれたほうじゃない銀色の灰皿の上で燃やした。 読まなかったのは今回だけじゃない。燃やしたのは今回だけだ。 何故、自分でもこうするか分るから、明日ゾロに会う事をためらった。 きっとゾロは女の良いところを言ってくれるに違いない。 オレがゾロに何も言えなくて、結局その場面を待つという行為があまりにも自分を惨めにさせた。 そして、明日の朝、女は何も知らないままゾロに優しく背中を押されてやって来るだろう。 答えは“イエス”だ。 <END> 「見上げれば」の3年前の話。 この話ばっかりは、自画自賛でござる。 <<<<<<<back |