頭の悪い男
[Two persons who are unrelated to Valentine]







ゾロはそう物事を考えるたちではないので、帰り際にサンジを家に呼ぼうと言う、極日常的なことを考えていた。
今日初めてサンジに会うというまでの事である。

その腕にいっぱいある中の、ちょうどサンジの手の部分にあるチョコレートは、きっと溶けているんだろうなと思うと、なんだか阿呆らしくなった。
いやらしいイベントだ。どちらをも惨めにさせる、嫌な企画だ。
「あれ?お前は貰わなかったのか?」
なんとも間抜けな声で話しかけるのでため息すら出せない。
「ナミに貰った。」
そういや、どこにしまったか忘れてしまった。そんなもんだ。
「え?それだけ?」
言いながら、どうやっても空かない手でポケットを探ろうとしているのを見て、飽きれた。
「や、今日は車で来たんだよ」
何ももたない手を、ゾロはサンジのポケットへやった。
どうしてこの男はこういう時に限って無理矢理ジーパンのポケットに鍵を入れているんだろう。阿呆だ。

無意味に暖かい。

「どうせお前、断わったんだろう」
ゾロは自分のポケットを探ったが、チョコは無かった。
当たり前じゃない、義理チョコよ、と言って渡してくれた小さなトリュフはあまりに綺麗で、目の前の女を今までの出来事抜きで尊敬した。
「可哀相だな、お前を好きになった女の子が余に可哀相だよ。」
「お前みたいに残酷じゃねぇんだよ。」
だって、ゾロの目の前のは、誰が見ても惨めだ。
羨ましいなんて思うのは、あんなのテレビの中での話だ。
「最初から断わるほうが残酷だよ。せっかくお前の為に作ったかもしんねぇのに。あぁ可哀相」
だって、そうだ、何も今日が特別な日でも何もないのに、周りの空気に流されてしまうなんて。
この日だったら、この日なら何をやっても許されるのならば。
ただし、もしもの話だ。

「最初から分かってんだろ、オレが断わるって」

言ってから、どうしようかと思った。自分でも驚いた。
流されたのは自分だ。
しまった。
そして、その後おとずれた気づかない程の沈黙は必然的だった。
自分の固く閉めた口を知って、ゾロは唇を少し舐めた。その唇は少しも甘くない。
少し遅くなったサンジの足を知って、思わず其れから目をそらした。
「馬鹿だな、なんの意地だよ。」
情けない。この男の声が余にも情けない。
自分を卑怯だと思う。こういう事を言ってしまう自分がとても嫌に思った。
それからサンジは無闇に笑った。その笑いがあまりに乱暴に聞こえて、ゾロはサンジの車が早く見える事を期待した。
流される女は嫌いだ。

サンジが出来ない事を全てやらされた。
空いた車のドアの向こうへ、サンジは少し勢いをつけて全てを投げた。
投げ出された包みが散らばるのを見て、ゾロは「あーあ」と言った。
「しょうがないよ、全部食べらんねぇし。」
「関係ねぇよ」
サンジはドアを閉める前に、ゾロに首を傾げたが、ゾロは首を振った。
当たり前だ。チョコと一緒に車に乗るなんて。
大体、何故此処までついてきたのかよく分からなくて、自分も阿呆だと少し胸を痛めた。
ゆっくり運転席に乗るサンジをだるそうに見るのすら恥ずかしく思えて早く帰ろうと思った。
その手をサンジが引いた。

その瞬間、期待した。
その後すぐに、自分が嫌になった。
何を期待したのかすら分からない自分を嫌になった。

「ゾロ、お前チョコなら食べれるだろ。これ持って帰れよ。」
もう自分がどんな顔をしているのか分からないのに相手の顔を見れない。
手を見た。
3つの小さな包みが乗っている。
明らかに女の、だ。
「お前を好きになった女の子が可哀相だよ。」
それからサンジの目を見た。自分なり精一杯の笑顔は、優しいその笑顔で返された。
キリキリと喉が痛い。いや、喉の下だ。
「馬鹿、義理チョコだよ。ここまで一緒に来てくれたお礼」
そう言って、無理矢理ゾロの手に乗せた。
サンジはドアを閉める時まで笑顔を見せていた。
早く行けばいい。阿呆。

チョコは好きだし、貰ったものはきちんと食べた。
慣れないテレビドラマを見ながらの話だ。
一番最後の、小さいヤツを形も禄に見ずに口に入れた時だ。
胸が痛くなった。いや、胸の上だ。
流されるのが嫌なのに、それをうっとおしく思うのに、それでも、やはり好きだ。
サンジが好きだ。

ラッピングを騙そうとするのなら、味まで騙せば良いのに。
確かにアレの味だった。

騙せると思ったのだろうか。
阿呆だ。
涙は出さないようにしたけど、その分が胸にいった。
気持ちが悪い。吐きそうになる。

まったく、阿呆だ。








<END>
んーありきたりだ。ラブラブ前です。
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