「行かない」 そう言った背中は息をしているのかどうかも分からない程静かだった。 だから、こちらの方が怯えた。 何も見えないはずの夜の部屋は月のせいで不気味なほど明るく見える。 帰ってきたとき、ゾロはこの中で1人ソファに向かって座っていた。 何か違和感があると気付いた時、逃げれば良かった。 あと、少しだったんだ。 一年間、ずっと2人でバカみたいに夢見てたのに。 ゴールがそこまで見えてるのは、分かっていたのに、どうして? 風がやさしく通り過ぎるだけで、沈黙が恐怖を誘った。 顔が見えない。一度に不安になる。 哀しい顔をしているのだろうか。それならまだ、良い。 もし、無表情だったら。 ・・・怖い。怖くて仕方がない。 息を呑んで、必死にその笑顔を思い出そうとするが、どうしても思い出せない。 頭が真っ白になっていく。冷えてしまう。 「ごめん。」 その瞬間、ゾロの向こう、薄暗く光るベランダに黒いものが見えた。 すでに燃えていた、紙。 おかしく、なる!! 「どうして!!!!!!」 燃えた全て、未来を見ないオレが2人ならと恐る恐る覗いてみた。 その紙で。 鉛筆で、癖の違う2つの文字が書かれた、その全てで! どうしてそうなるのか分からない。 空気はオレのほうばかりが痛くなるばかりで、1人空回りなのが鮮明に感じられた。 苦しくて、歯を食いしばる事しか出来ない。 情けなすぎて重くなった頭は上がろうとしない。 ああ、昨日の事はもう薄れてきてしまった。 ゾロからくれた、言葉にかき消されないほどの優しい、キスを。 “愛してるって言ったら、怒る?” “バカ、死ねアホ。” 行かない、とゾロはもう一度呟いた。 こんなにも、樹海が近くにあるなんて知らなかった。 その白い光ばかりを追って、過去を振り返らなかった。 それと同時に、ゾロにも振り向かなかったのだ。 「・・・ゾロ」 それを伝える唇は震えてしまって素直に声が出て行かない。 火をつけ忘れたタバコは手の中でくちゃくちゃに折れてしまった。 おねがい、嘘だと。 嘘だよと、それだけで良い。 今はそれだけで良いから もしそれを言わなければ、きっとオレはもう1人で。 夢にならない夢を追いかけて。 「ねぇ、冗談・・・」 「俺は、この街から離れられない。」 まっすぐな声で。 震えが止まらなくて、苦しくて息が苦しくて、いっそ涙なんて格好悪くても出てしまえば良いのに、唸るだけで止まってしまって。 ゾロ! お願い、冗談だと!! 「だからさ、」 言わないで。 「もう、辞めよう。」 そう言って振り向いた顔は酷く哀しそうにそれでも笑っていて、オレは目を見開いた。 「ね。」 伸びたその腕は、タバコのカスを落としてオレの指とからまった。 もうその温もりを感じなくなってしまった。 オレはひたすら、泣いた。 ごめんね、ゾロ。 さようなら。 <END> このシーンは出すものではなかったので閉鎖した。 <<<<<<<back |